平日のお昼休み、ビル街を歩いていたら、ふいに頭上がざわっと茂って。

「あれ、ここ森…?」

大手町のど真ん中です。スーツの人がせかせか歩く、あの大手町。

大手町の森の並木道。木々の間にガラス張りの建物が灯り、ビジネスパーソンが歩いている
オフィス街のど真ん中とは思えない並木道。奥に見えるのが大手町タワー

「オオテモリ」で検索して来てくださった方、たぶん僕と同じものを見たんじゃないかなと思います。

結論:「オオテモリ」という施設は存在しません

先に答えを書きます。「オオテモリ」という名前の場所は、正式には存在しません。

正しくは「OOTEMORI(オーテモリ)」。大手町にある、地下のお店の集まりの名前です。

ローマ字の「OOTEMORI」を素直に読むと「オオテモリ」になりますよね。僕もそう読みました。たぶん、そこからの読み間違い・聞き間違いです。

ただ、ややこしいのはここから。「オオテモリ」で検索して出てくる写真の多くは、地下のお店ではなく地上の森のほうだからです。名前が近いものが、この一角に3つあります。

  • 大手町の森:地上にある緑そのもの
  • 大手町タワー:その森を抱えている建物のほう
  • OOTEMORI(オーテモリ):地下1階と2階に入っているお店の集まり

名前が似すぎです。僕も最初は「あれ、どれの話だっけ?」と、頭がこんがらがりました。

写真を見て「これだ」となるのは、たぶん1つ目の「大手町の森」だと思います。広さは約3,600㎡。敷地のおよそ1/3が森です。植え込みじゃなくて、本物の森。

場所は東京都千代田区大手町1-5-5。大手町駅から直結していて、東西線の中央改札を出てすぐです。雨の日でも濡れずに行けます。

作ったのは東京建物。ビルを建てる会社が、森まで一体で手がけている。ここが僕は面白いなと思いました。

なぜオフィス街のど真ん中に、森を作ったのか 🌳

ここが、僕が一番「えっ、そうなんだ」と思ったところです。

コンセプトは「都市を再生しながら自然を再生する」。

ビジネスの中心地だからこそ、その正反対にある野性味のある森をつくる意味がある。そういう発想から始まったそうです。

しかも、ただ木を植えただけじゃありませんでした。

専門家といっしょに現地を歩いて、この土地でどんな植物が育つのかを先に調べています。すると、大手町はちょうど2つの植物グループの境目だと分かった。だから両方のグループの木や草を植えて、「人が心地よくて、生き物も棲みやすい森」を作ったそうです。

正直、ここまでやるとは思っていませんでした。ちょっと胸が熱くなります。

こだわりが徹底している。3つのキーワードと、200本の自然木

調べていくと、こだわりの深さに驚かされます。

設計のキーワードは「疎密・異齢・混交」の3つ。漢字だと固いので、かみくだくとこうなります。

  • 疎密:ぎゅっと茂った場所と、開けた場所を、あえて作る
  • 異齢:若い木と古い木を、混ぜて植える
  • 混交:ずっと緑のままの木だけにせず、葉が落ちる木も混ぜる

手入れのしやすさより、自然な状態に近づけることを選んだ、ということですね。管理する側からすると、たぶん面倒なほうです。

木も、お店で売っているような整えられたものではありません。もともとの生態系を乱さないように、関東近郊の山から採ってきた自然の木が約200本。地形に合わせて、1本ずつ置き場所を決めたそうです。

実際に歩くと、それがよく分かります。シダや下草が、きれいに整えた植え込みというより、藪みたいにわさわさ茂っている。石も、角を落として整えたものじゃなくて、ごろっとそのまま置いてある。

大手町の森の円形の広場に置かれた自然石。周囲はシダに覆われ、背後に大手町タワーが立つ
整えられていない石と、藪のように茂るシダ。背後はビル

おまけに、いきなり本番を作ったわけでもありませんでした。

千葉県君津市に約1,300㎡の試すための土地を用意して、そこで約3年かけて試しています。土の成分、木をどれくらいの間隔で植えるか、どう手入れするか。植えた木や草は、当初117種。

3年ですよ。本番の前に、3年。ここまでして臨んだという事実だけで、本気度が伝わってきます。

植物は100種から301種へ。そして208種に落ち着いた

森ができたのは2013年。まず2013年8月にビルの一部が形になって、そのときに森と地下のお店も第一弾がオープン。ビル全体が完成したのは、翌2014年4月です。

つまり今僕らが歩いている森は、10年以上かけて育ってきたもの、ということになります。

ここからが、データとして特に面白いところ。

  • 植えた当初は約100種
  • その後、一気に約301種まで増えた
  • 木が育つにつれて強いものが生き残る競争が進み、2021年には208種に落ち着いた

あわせて虫が129種、鳥が13種も見つかっています。しかも、国や東京都が「数が減っている」としてリストに載せている珍しい種類まで顔を出しているそうです。

増えて、競い合って、また数が変わる。森が「完成」で止まっていないのが、なんだか生き物らしくていいなと思いました。

皇居のすぐ近くというのも意味があって、生き物が行き来する途中の休憩所みたいな役割も果たしているとのこと。オフィス街の真ん中に、そんな場所がある。そう思って眺めると、また見え方が変わってきます。

敷地内で平均1.7℃。森は都心の気温も下げている

森の効果は、見た目の癒しだけではありません。

木が水を吐き出す働きと、土が水をためる力で、ここはちょっとした涼しい場所になっています。敷地の中では平均1.7℃、周りでも0.3℃、気温が下がったというデータがあります。

夏の都心の暑さって、本当にこたえますよね。その中で緑がじんわり気温を下げてくれているのは、地味だけどありがたい話だなと思います。

大手町の森の樹木とシダの下草をライトアップした風景。奥にビルの明かりが見える
日が落ちると、森の表情がまた変わる

こうした取り組みが評価されて、大手町タワーは環境省の「自然共生サイト」に2023年度に選ばれています。ほかにも環境まわりの賞をいくつか受けているそうです。

きれいな話だけではない。手入れは地味で根気がいる

良い面だけでなく、難しい面も書いておきます。

調べた範囲では、はっきりした「反対の声」は見つかりませんでした。なので賛成・反対というより、「良い点」と「手間やお金がかかる点」の両方として見るのがよさそうです。

森が育って、気温が下がって、生き物が戻ってくる。国のお墨付きももらった。ここまでは、きれいな話です。

でも、その裏では地味な作業が続いています。

  • 葉が落ちる木は、落ち葉が風で近所に飛ぶ。だから街なかの緑では、本当は避けられがちな存在
  • 植え方そのものが、職人さんにとっても初めてのやり方だった。思った以上に時間と手間がかかった
  • 木が育つほど、上のほうが覆われて開けた場所が減る。だから間引きや植え替えが、延々と必要になる
  • 建物にかかる重さ、水やり、肥料、虫や病気への対策。こういうお金もかかり続ける

「森を作る」ってきれいな話に聞こえますけど、その裏には根気のいる手入れがずっと続いているんだな、と。それを知ってから歩くと、また違った見え方をする気がします。

行く前に知っておくと、たぶん楽しめること

実際に行く方向けに、補足をいくつか。

  • ベンチがある。お昼休みに座って過ごせる距離感なのが、この場所のいいところ
  • 地下で食事もできる。地上の森から光が降りてくる作りなので、地下でも緑と明るさを感じられる。レストラン、デリ、ショップ、クリニックが入っている
  • 雨の日でも行ける。大手町駅直結、東西線の中央改札を出てすぐ
  • 季節で表情が変わる。葉が落ちる木も植わっているので。ただ「この時期がベスト」と言い切れる出典は見つけられなかったので、季節ごとに違う顔を見せてくれる森、くらいに思っておくのがちょうどいい気がします
大手町の森のベンチと、シダが茂る下草。奥にはガラス張りのビルが見える
ベンチもあるので、昼休みに座って過ごせる

まとめ

  • 「オオテモリ」は「OOTEMORI(オーテモリ)」の読み間違い。ローマ字を素直に読むとそうなる
  • この一角には名前の近いものが3つある。地上の緑「大手町の森」、それを抱える「大手町タワー」、地下のお店「OOTEMORI」
  • ビジネスの中心地に、あえて野性味のある森を作った。山から採ってきた木が約200本、本番前に3年の試し期間つき
  • 植物は100種→301種→208種と変わってきた。虫129種、鳥13種も。森はまだ完成していない
  • 敷地の中では平均1.7℃、気温が下がっている。環境省にも選ばれた
  • その裏では、落ち葉・間引き・お金といった地味な手入れが続いている

良い面も難しい面も知った上で歩くと、この森はもっと面白く見えてくると思います。

オフィス街のど真ん中で、ふと頭上を見上げたら森だった。

大手町の森から見上げた大手町タワー。木々の向こうに高層ビルのガラス面が青空を映している
見上げると、木々の向こうに大手町タワー

近くまで行く用事があったら、5分だけ寄ってみてください。

撮影・執筆:かず

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